金謡会というものに所属しています。
これは、フライデーナイトをカラオケでフィーバーしてやるぜ!という血湧き立つ友人たちの集まりをおしゃれに呼称したもの。
ただ、あたしだけ遠方に住まっているので、たとえ開催できても参加できないという過酷な事実があり、毎週煮え湯を飲んでいました。
だから、物理的な距離をものともしない、目の前に友人が現れて歌い合うという夢のようなカラオケルームができないものか。なんかこう、時間も空間も共有できて、触れたらほんのり温かみのある。そんな、ドラえもんのいる22世紀でしか実現できそうもないオーバーテクノロジーでね。
あたしは近ごろそんなことばかり日夜考えている。暇なの?
もっと究極的にいえば、カラオケルームに足を運ばずとも、自宅のオンライン環境でおとなりさんの壁ドンを誘発しないよう、大声で歌うことができないものか。そんなシン・VRカラオケが誕生したら、あたしは喜んでお金を振り込むだろう。
もう今の時代、「音」も「視界」も、時間と空間を凌駕してつながり合えるのだから、それくらい実現してもいい気がする。
ただ問題は「防音室」なのです。
レディプレイヤー1という映画をご存じでしょうか?
VR技術が発達した世界で、現実もバーチャルの世界もシームレスにドラマが紡がれていく。
そんなテーマを込めた作品で、映画館で観てからずっと好きで、今でもプライムビデオなどで繰り返し視聴し直しています。
かたやソードアートオンラインで表現されているフルダイブシステムは、ヘッドギアのような機器を装着してバーチャルの世界に自己を投影します。PSVRはこれに近い形ですね。首を回して視点を誘導することで360度の現実世界を模しています。実際の操作は手元のコントローラー。(SAOは脳波で操作しているようだけど)
そんな「安全型」のVRダイブとは一線を画すのがレディプレイヤー1のVRシステム。
足下に前後左右に自由に駆動するランニングマシーンを設置していると言ったら表現できますか?
視界は「安全型」方式で確保しながら、身体を動かすこともできるという画期的な仕組みに仕上がっています。腕も動かす方向にアクションできるよう専用のグローブを装着し、走ったり歩いたりをベルトコンベアでがっこんがっこん。
ただこれ、あまりに激しく足を動かすと、どったんばったんがっこんがっこんと近所迷惑もいいところ。
本編中ではかなりのプレイヤーがVRワールド〔オアシス〕にアクセスしていたようで、隣人もそのまた隣人もどったんばったんがっこんがっこんとやっていたと記憶しています。
「夜中にうるせえぞ!」と怒鳴りつける描写があったかどうか……ちょっと忘れました。もう一回観よ。(ウキウキ( *´艸`))
ドラゴンクエストもその昔、新宿のVRゾーンという施設でアクティビティとして楽しめました。くそ重いランドセルを背負ってまものたちと戦うのですが、なんとあたしも体験したことがあります。
たしか距離感や空間という概念があって、まものに攻撃をあてるために前へ出る、味方を守るために縦一列陣形で盾になるなど、一歩一歩着実に動いて、バーチャル内のキャラクターたちを操作するという仕組みでした。
これには、「勇者たちの冒険」というのは、こうまでも苦労の絶えないものなのかとまざまざと見せつけられました。
ファンタジックに一瞬で敵の間合いに飛び込み華麗な剣技をお見舞いする。そんなことは、現実的にはどだい無理な話です。
位置情報を処理するためのバカ重ランドセルのせいで、身軽に動くことは叶わず。ある程度まものたちの動きを予測して戦術的に一歩一歩着実に、仲間との距離感も慎重に見極めながら動かないといけない。
ゴーグルをつけずに端から見たら、ノロノロとぶつからないように手を掲げて歩くくさった死体たちがうごめく空間にバイオハザードみを感じたことでしょう。
ああ゛ー
ああ゛ー
ああ゛ー
実際にこういうリアリティを追及したVR体験をするためには、超えなければならないハードルがたくさんあります。
ゲームの種類にもよりますが、たとえばレースゲームなどゲーム内で移動処理をしてくれるものなら、前述の「安全型」でいいわけですから実現がしやすい。VRゾーンのマリオカートVRなどがそんな部類でした。
カートを模した乗り物に乗ってハンドルを切ればいいだけ。
アイテムは片手を上げることで構えて、振り下ろせば投げることができる。
ゲーム内で処理がしやすいアクションだけで構成されていれば、人と人がぶつかったり近所迷惑をかけることもなく、VRシステムを設置する拓けた場所を作る必要もない。
「バーチャルでリアルな世界はもう手の届くところまで来ている」とは、よく言ったもの。
実際にバーチャルの世界に人間が入って、セカンドライフ的な生活が送れるようになる。
そこまで行ってこそ、真のバーチャルリアルだと思うのですが、現実を見てください。
随分昔から、人は肉体のくびきを解き放つことができる。容姿に不満があってもバーチャルがその悩みを解消する。無責任に期待値ばかり上げて、実際にそんな未来がみなさんの目の前に訪れるのは何十年後でしょうか?
気がついたらデジタル化うんぬん言っている場合ではない、介護の必要な年齢に突入しているかもしれません。
誰がジジイじゃ!
わしゃまだ現役じゃぞ!
おとなりのぺりめにさん、またヘルパーさんに怒鳴り散らしているわ。
とか言われているやも。
そんな期待できない未来を待っていたくもないので、迅速なデジタル化推進をして欲しいわけです。
とは言っても、先の構造的実現性の欠如により、バーチャル世界の整備は毛頭期待できないとあたしは考えるわけです。
そんなわけならば、我々は指をくわえて老人の仲間入りを迎えろというのか。いいえ、ふと思いついたことがあります。
真のバーチャルリアルとは、肉体のくびきを解き放つことができれば、容姿に満足感を与えることができればいいのではないだろうか?
ん?
あれ?
ちょっと待って?
それってもう現実になってませんか??
そう。あなたが見ているこのぺりグも同様。
そもそもインターネットの世界に、肉体情報は不要ですよね。
あなたを表現するキャラクターも、アバターとして情報の書き換えが自由に行え、顔出しをしなければ個人情報がばれることもなく、性格や声色さえも偽装することが可能です。
偽装というと聞こえが悪いですが、いい意味で装うこともできるということ。
ゲームをしながらオンラインでコミュニケーションをとることもでき、もちろん見知った人同士なら顔をつきあわせて画面越しに会話することもできる。
もうバーチャル世界はしっかりとみなさんの目の前にあるわけです。
ネットの世界が広まったとき、今でこそしっかりと折り合いをつけている方が増えていますが、当時はそこから抜け出せなくなった人が大勢いたのも確か。
ネットの世界を軸に活動している人は、すでにバーチャルリアルしている状態と言えます。現実世界とネット世界がシームレスになっている。
これってつまり、ネット世界(バーチャル)に「どれだけ現実世界を染み込ませることができるか?」がバーチャルリアルに近づく鍵になっているんだと思うんです。
ソードアートオンラインのようなフルダイブシステムはちょっと怖いですよね。バーチャルに現実を染み込ませすぎたため、ゲームからログアウトできないというただ一点で未曾有の大事件を生んだ。
けれど、バーチャルへ染み込むほど、刺激的な没入感を与えてくれることも確か。
この「染み込み具合」が「没入感の深度」と言い換えられるのなら、現時点で達成可能な最大限の近づき方を探ればいい。近すぎても危険、遠すぎると現実味が薄れる。となると今の両軸の平衡感覚にワンエッセンス加えるくらいの変化があればいいのではないでしょうか。
そこまで考えて、冒頭の話に戻るわけです。
(つづきから)
高性能な防音室は高いものでうん十万円から費用がかかってきます。
今後も地球は暑くなり続けますから、空調は必ず備えて欲しい。それに賃貸住居であっても導入しやすい広さや、設置のしやすさも考慮していただきたい。音もできる限り防いで欲しい。
フルダイブして肉体のくびきを解き放ち過ぎずに、現実世界にも腰を据えておきながら、いつでもバーチャルへ旅立ち、大いに没入してから還ってこれる。
大声でしゃべったり歌ったり、深夜にどったんばったんがっこんがっこんと騒音を出したとしても、ご近所さんから訴えられないレベルの防音ができれば、ぐっと没入感を味わえるわけです。
オンラインゲームやオンライン会議で白熱したっていい。VRホラーを見て金切り声を上げようが、シン・VRカラオケで熱唱しようが、ご近所の目を気にしなくていい。だって聞こえないんだから。
誰もがそんな夢のような防音室を手軽に手に入れられる未来が訪れるとしたならば、本当の意味でその空間はバーチャルリアルと化す。
「音」の問題だけ、ただひとつ。
それを解消するだけで、「バーチャルでリアルな世界はもう手の届くところまで来ている」とはっきりと言えるのではないでしょうか?
SAOのように人の脳波に作用するVR機器を製造するための予算を捻出するより、安く手に入る防音個室を流通した方が時間と金がかからなくて済むと思うんですけどね。〈了〉
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