「水たまりは飲んではいけません」
「スプーンをおでこに貼り付けてはいけません」
他にも挙げていくとキリがないが、中でも群を抜いて突飛なことだなと思ったのが以上のふたつだ。
育児していて、みなさんどうですか?
「ダンゴムシをポケットに入れるんじゃありません!」とか言いませんか?
男の子だけかな?
あるあるだと思うんですよ。
路上や公園に居たりする虫をどうこうというのは結構あるあるかなって。
うちの子はセミを排水溝に詰めようとしてました。
死骸だったんですけどね。
駐車場で壁からころりと落ちてきたらしく、それを子が見つけて嬉々として飛びついた。ここのところ、水たまりを見かけると吸おうとするし、虫を見かけると一旦クチに放り込もうとするのがお決まりになってしまっていたので、
「うわあーーーーーーーーーー!」「アカンアカンアカン!!」「待って待って待って!」と、奥さんと子に飛びついて、腕と顔を羽交い絞めに。
フー、フー、と息せき切らす親をきょとんと見つめる子。観念したのか、セミを持ったまま腕をだらんと垂らす。
フウー良かった。
胸をなでおろしたのも束の間。
カモシカのごとき跳躍で排水溝に飛びついて、「うわなにするやめ、」と言い切る前にセミをズボオオッと突っ込んだ子。
排水溝にねじ込まれどざえもん状態で脚をぴくぴく痙攣させるセミ。いや死んでるんですけどね。
そもそもセミをべたべた触った手で髪やらをさわろうとしていたので、セミ排水溝を面白がる間もなく洗面所へ走り込んだ親子。はい、お靴ぬいで!早く手を洗って!シャバダバダー。
いつもこんなんです。ドタバタ劇。
ひと息つく間もない。
帰ったらまたドタバタと晩ごはんの支度。
子どもはプラレールで大興奮。
「セミをああいう溝に、ていうか穴に、突っ込むんじゃありません」
ようやくごはんを食べながら、座って話を聞いてくれそうになったので、言ってみましたが、覚えているんだろうか?と自分でも小首を傾げながら注意する。
そして、なんだこの注意。
セミを穴に突っ込むんじゃないよ。
ってどういう注意なん?
しつけって予期せぬ言葉をのたまう。
これまでの人生で、これからの人生で、こんなことを言う機会あるかね?という言葉のオンパレード。
でも、しょうがないんですよね。
子どもは何も分からないんだから。
世の中の常識なんかを予め知ってから生まれてくることなんて有り得ないんだから。世の理を知っていたらそれはもう転生者か何かよ。
現代に転生してくる意味って何?
今この世界は転生者の救済が必要なの?
ってツッコミたくなるわ。
常識って当たり前に、あたしたちは知って、今を生きているけれど、子どもは常識を教えてもらわないと分からない。あたしたちも親が常識を一生懸命に教えてくれたんだ。そう思うと、親に感謝を伝えたくなってくる。
ひとりの人間に「当たり前」を教えるって、会社や学校で後輩に「ルール」を教えたことがある人なら共感してくれると思うんですが、難しいし大変ですよね。
生きていくためのルールを正しく教える、という行為を一から十まで余すところなく言葉や行動で伝えていく。奥さんにも感謝だし、保育園の先生にも、じいじとばあばにも、この子に関わってくれるすべての人に感謝したい。全員抱きしめたい。それくらい大変なことだと思うんです。
しつけって本当に、大変です。
そんな、ね。毎日がしっちゃかめっちゃかな我が家ですが、うちの子もがんばって生きてます。な、がんばろうぜ――あっ、ちょ、こら、また……ッ!
「スプーンをおでこに貼り付けてはいけません!」