地表を釜ゆでの刑に処したんじゃないか、と疑いたくなるほどの気温に日本全土がうんざりとしていたお盆前のある日。
学生で言えば夏休みも後半戦にさしかかろうとする8月初旬。花火シーズンまっただ中。あたしは身体にむち打って遠征したにもかかわらず、全科目で「合格に至らず」という不名誉な烙印を押され、ボロぞうきんのようにくたびれ果てた心身を癒やすべく、ソファにたいそう深くもたれ掛かり、妙な既視感を感じつつも穴が空くほどスマホを睨みつけていた。
「休日出勤してほしい頼む!手当には色をつけるから」と、いけ好かない上司に懇願されたわけでもないし、ざこざこ最底辺の我が視力が、昨日今日でマントルに届きそうなほど底の底へと急潜行したわけでもない。
あたしが眉間にしわを寄せて見ていたのは、この二文字。
「あぶない水着2024か。やってきたな、今年も、夏が」
そう。
あ・ぶ・な・い・水・着の二文字だ。
違う、六文字あったわ。
(……ん?つい最近、同じボケをかました気がする。だとしたらまずいなあ。ボケかぶりだけはブロガーとしては断固避けたい)
夏の訪れを告げると共に、一通のお知らせが届く。
「今年のこぼれ落ちそうな灼熱果実は、セラフィのたゆんたゆんです」
なるほどな。健康的な素肌が白日の下にさらされ、その絹のように透き通るなめらかな弾力は、今にもわずかな布地から飛び出していきそうだ。
つまりはこう解釈できる。
「今年もきわどい水着を用意しました。この日のために石は砕かずにいた方もいるでしょう。ベホマラーもつけます。どうぞ、ジェムを使ってください」
ここで股間の脳みそで考えてはならない。股間の指示に従い、瞳の奥でその真意を読み解こうともせず、煩悩解禁と綱も巻かずに飛び降りてしまうと運営の思うつぼだ。命をも落としてしまう危険がある。事は慎重に運ばねばならない。
NPCですらあたしの股間をざわめかせる。これはよくない兆候だ。一旦、全身の血が下腹部へ集中している現状を、どうにかして落ち着かせる必要がある。
スマホを睨みつけて、小一時間が経過しようとしていた。ふう。小休止でも挟もうか。
スマホから目を離す前に、他のお知らせに目を通してからにしよう。そう思い至り、空へ投げ出す目線を再び画面に戻したのがいけなかった。
アッ!
ふっ、復刻……ッ!!
あっ、ちょ!
アッッッッ、ちょッッッッ!
セクシー!
しぇ、しぇクシービーム!!
まだ、取れてない……取れてないぞォォォォォォ!
ウォォォォォォォォーーーッ!(カチャッカチャッカチャッ)←有償ジェムを込める音
ドウンッ!ドウンッ!ドウンッ!←液晶パネルを壊す勢いでタップする音
おたからスライムたちが魔方陣に駆け込んでくる……ッ!
アアアーーーッ!引いちゃったーーーッ!
テッテレー
取れてない水着がきちゃったーーーッ!(取れてなかった、よ……な?)
って、え!?マジ!?
ぃやっタァァァァァァァァァう!!!
ぱふぱふ水着だァァァァァァァーーー!
ご存じの方はご存じの通り。防具にもスキル習得のできるものが存在し、この絵同様、21年水着は「ぱふぱふ」が習得可能スキルとしてくっついていた!
しかしそれは辛くもガチャ運のなさから、あたしの手のひらをするりとこぼれ落ち、錬成オーシャンウィップでしかお目にかかれていなかったのだ……!
こうして戦闘中にぱふぱふを堪能しようにも、オーシャンウィップを担いでいないとできない始末。
さらに、一本しかないオーシャンウィップを全員ぶん持たせる必要がなく、
いつだって思い立った時に……!
1戦闘で最大2人まで、ぱふぱふを味わえることになる!
なんて感動!天にも昇る快感とはこのこと……ッ!いつも衝動的に引き金をひいてしまう質なのだが、今回ばかりはそれでよかった!これでよかったのだ!脳髄をアドレナリンが駆けずり回るッ!あふうーん。
見よ、このぱふぱふバリエーション!
どうだい!?
うちの子たち、いい娘が揃っているだろう!?
よそに出しても恥ずかしくないよう手塩にかけて育てた子たちだ!まま、今宵は一献。辛めのやつをぐいと飲みながら、分裂したふくよかな月でも眺めましょうや。(乱視)
つんと胸を突き出して、あたしの大事な部分へ押し当ててくるのは'21水着で一向に構わないのだけれど、こうして次から次へとぱふぱふモーションを眺めたくなったときには、オーシャンウィップのように武器に当該スキルがついていると、いろんな服装で試せるのが捨てがたい。
魅了絡みの単体ヒャドじゅもんしかないので、実用性はいづれにせよ低いのだが、思いがけない10連ツモにあたしの頬は緩みっぱなし。いやあ、今年の夏は早くも良い思いをさせてもらったものだ。
夏で、夏休みだった。
ぱふぱふのおかげで、メガモンに勝てなくても、強敵がいつまでもSこころ落とさなくても、太陽光に死を感じる外界にビンゴのためだけに出かけることを強要する運営への怒りも、すべてまるっとなかったことにしてお盆は心穏やかに過ごすことが出来た。
とはいえ、家の中に引きこもりきりとはいかず、心なしか、守り人のぺりめにも日焼けしているように見える。
そして気がつけば夏の全国高校野球大会、甲子園は大会第11日目。暑い日差しを背に、ゆで釜で白球を追いかける高校生たちに目頭を熱くさせていた頃、あたしはというと新千円札の記事を仕上げていた。8月17日。
ドラクエウォークではサマージェムくじ第2弾の結果が発表になっていたが、当然こんなものあたるわけもなく。スマホをソファにたたきつけたくなる気持ちを堪え、腹いせに水着復刻ガチャを回すことにした。
ゼシカがメインで登場したあぶない水着'23装備シリーズ。
このふくよかすぎて走るとたゆんたゆんと形を歪ませるご立派様をお持ちのゼシカ。彼女のセクシー伝説は枚挙に暇がない。年端もいかぬ少女にはあるまじき、「おいろけ」なんていうスキルを身につけ、可愛くもダイナミックな色気を振りまく。これが本編中に登場するというのだから、世の小学生たちは何を思って彼女を眺めていたのだろうか?どうせパンツを覗こうとしたり、不必要に走らせてご立派様をバインバイン揺らすことに終始していたのだろう。何を隠そうあたしがそうだ。
彼女の魅力を語り出すと停まらなくなるほどの魅力を兼ね備え、シリーズ通しても彼女を超える好きキャラは出てきていないと豪語するほどのぺりめにが、そんなゼシカメインの水着ガチャを引きまくっていないわけがない。
2023の夏、何度も課金したくなる手を堪え、自制しきってパレオだけ引いた自分を、中途半端の生殺しと恥じた。4.5周年後半で一度復刻した同装備に、今度こそとツッコんだ末、水着上×1のみ。もうここが3度目の正直なのだ。もう股間は待ってはくれない。ここで引けなきゃ股間がすたる。おおおおおおおおッイクぞァァァァッ!
ハァァァァッァ!
アァーッイ!
だああああああああああああああああああ!
万年金欠のぺりめに。
物欲に勝てず、いつも石を貯めきれずに使っちまう俗物。
オオオオオオオオオオ……。
と声にもならない声を出し、空っぽになったジェムを穴が空くほど見つめる。なぜいつも10連しかできないほど金欠なのだ、あたしは。
くそっ、ガチャ終了はいつだ!?
8月29日か。よし、まだ2週間くらいある。
こうなったら、引くまで終われねえ。あたしの夏は、これからだ!
いつもは起動するかしないかムラがあるスタイルのぺりめに。しかし一度火がついちまうと止められないぜー?
マイレージ、ジェム金策を開始。残り2週間でせめて30連はできるように、資材をかき集めてやる。それでダメならマネーで勝負だ!
……っと。
ちょっと待てよ?
最近、そんなことで散財しなかったか?
いつまでも学ばないなあたしは。ええと、いつだったか。こんなもんぺりグを見れば、大抵のガチャ爆死は記事にしているからな、すぐわかるさ。
ん……?
エンドレスぱふぱふエイト……?なんだ、こりゃあ。しかもこいつは、9月23日?未来の記事じゃないか……ッ!?
『まったく、やっと気が付いたか』
だ、誰だ!?振り返ると、部屋の隅に、腐りきった死体が立っていた。ぎゃあああ!
『おい待て待て説明をしている暇はないが、あたしは9月のおまえだ』
う、嘘だろッ!あと2週間ばかり寝て覚めたら身体が腐りきってしまうのか、あたしは!?ぜ、絶望すぎる……ッ!
『どうしてこの身体なのかはあたしにもわからないが、おまえに警告をしなければならない』
け、警告……ッ!?み、未来人みたいなムーブするじゃないの!!ずるいぞ!!
『何となくおまえも既視感を覚えているように、あたしの記憶は8月初旬くらいから29日までをループしているらしい』
ぎゃあ!なんだそれ!どこかで見たぞそんなSF展開!でもちょっと待て、記憶がループしているって、いったいどういうこと!?
『詳しくはあたしにも本当にわからないが、この時の記憶が2024年の8月という期間に囚われていて、未来へ進むことを拒んでいる。そのせいで、このブログの更新が滞っているんだ』
せ、説明を聞いてもよくわからんぞ!
『誠に残念だが、説明しているあたしにも理解ができん。しかしそうとしか言いようのない出来事が起こり始めている。おまえが何とかして記憶を進めてくれないと、今後一切の記事が生み出せなくなってしまう』
や……やばいじゃないの……。せっかく毎日更新を謳ってがんばってきたのに、それじゃあすべてが水の泡になってしまう、ってことォ!?
『このままだと永遠に2024年の9月で更新が停まってしまう可能性も否定できない。それを報せるためにあたしは来た。まさか身体が腐るとは思わなかったが』
で、でも、だとしたらそのループの原因てのは目星が付いているのか?
『ハハハハそれがわかればこっちで何とかしているさ。ハハハハハー』
小憎らしい……土に還してやろうか。いやそれはマズいか。腐っても自分だ。
『じゃああたしは帰る。くれぐれも頼んだぞ』
そう言って、どろりと溶けていなくなった。こわっ。こいつ本当に人か?
未来人なんかと会話するという、脳内に重大な過失が観測されでもしないと体験できないようなことを体験し、あたしはまた気が狂いそうになった。
未来人?そんなばかな。
じゃあこの一連の気づきや既視感を誰がどこで観測しているというのだ。そしていったい今は何月何日なのか?
原因を探せと言われても、そんなすぐに見つかるのなら、未来人が動き出しちゃいないのだろう。
今までの記憶か、これからの記憶か。
そのいづれかで、未来が分岐するポイントがどこかにあるはずだろう。あたしはSFに詳しいんだ。きっと原因なんてそんなところだろう。
時間改変なんて大それたこと、自分ができるはずがないと思い込んでいるあたしは、久しぶりに酷使した思考回路がショートし、ぶすぶすと発火しはじめていた。今日は疲れた。とりあえず、自分の思うままに日々を過ごすこととしよう。
思考を停止したあたしは、このまま何もしないことにした。どうせがんばったところで、ガチャが思い通りになったことなどないし、出るときは補助券一枚でだって出るのだ。
ほうら、なけなしの50枚を投入だ。1、2、3、4、5はい出ない。おやすみ。
気がつけば8月も29日。
ああ、終わる。
あたしのかけがえのない夏が、今年も無情に終わっていく。
やっぱり高望みをしてはいけなかったのだ。こんな気持ちになるのなら、ぱふぱふだけで満足していれば良かったのだ。そう結論づけた。
ガチャ爆死なんてしょっちゅうだ。
ちくしょう……ゼシカ水着復刻の夏が終わってしまう。何が3度目の正直だ。
ああ……。
15時が近づく。
もういい。
もう、どうにでもなれ、だ。
こんな感情、アプデ後のぺりめにが何とかしてくれるさ。あたしは単純なんだ。脳の構造は、複雑そうにみえて実のところ、大して中身が詰まってはいないのだ。きっとまた15時を迎えて、次の楽しいことが始まれば、そっちに傾倒するんだ。単純だからな。
結局、未来からきた自分に警告されたことが本当に起こるのか。今となっては甚だ疑問だ。記憶がループするなんざ、わけのわからない事象、どう対処したもんだか。
ばかも休み休み言え、あたし。そんなこと自分の脳内でなんぼでも処理できるだろ。なんだって過去のあたしに頼むんだ。馬鹿馬鹿しい。どうせこのターンではがんばっていないのだ。ここで何かが変わろうが、何も変わらなかろうが、結末に大して影響はないんだ。ハハハハハー。
秒針がカウントアップを刻む。15時まであと5秒くらい。カチッ、コチッ、57、58、59…………
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